iPadは、縦なのか横なのか | iPad「PC化」の歴史
初代の発売から15年以上の歴史を持つiPadだが、iPadの向きは果たして縦向きなのか横向きなのか。今回はその1点に絞って歴史と現状を整理する。ただし、この記事では端子が底面に来て長辺が縦方向になる持ち方を縦向き、端子が右側面に来て短辺が縦方向になる持ち方を横向きと定義する。また、iPadの世代名表記は旧世代の製品も含め、原則として搭載SoCをカッコ付きにするものとする。
初代iPadの設計思想
2010年にリリースされた初代iPad (A4)のリリースには、次のように書かれていた。「すべてのアプリケーションは縦横いずれの方向でも使うことができ、ユーザーがiPadをどの方向に動かしても自動的に表示画面が回転します。」つまり、当初からどちらの向きで使われることも想定していたということだ。しかし、背面のAppleロゴは当初から縦位置基準で配置されており、縦向きを前提として考えられていたiPhoneの延長線上にあったのも事実だろう。
iPadカバーの設計思想
iPad 2 (A5)では新たにiPad Smart Coverという「風呂蓋」状のカバーが登場し、カバー部を三角になるように折り込むことで横置きに適したスタンドになる構造が生まれた。この風呂蓋構造は現在のSmart Folioまで引き継がれており、iPadを横向きで使うことで横長の映像コンテンツを楽しめたり、より大きいサイズでソフトウェアキーボードを展開できたりするようになった。さらに、次世代機となるiPad (A5X)ではRetinaディスプレイが採用され、GPUが強化されたXシリーズのチップを採用するなど、前述した映像コンテンツ消費と仕事方面と横向きが生かされるアップデートがされていった点は特徴だろう。

2012年には新しいサイズとしてiPad mini (A5)が登場した。前述したiPad (A5X)やiPad mini (A5)と同時に登場したiPad (A6X)と比べるとチップ性能が劣っていたりRetinaが採用されていなかったりしたものの、こちらのiPad miniにもiPad mini Smart Coverという風呂蓋が登場した。つまり、縦持ちのみを前提としたiPhoneと差別化を図るために、miniであってもiPadは横向きを中心に考えているということだったのだろう。
iPad “Pro”の登場
次に変化が訪れたのは2015年秋のiPad Pro (12.9”, A9X)の登場だろう。12.9インチの大画面は13インチのMacBookにも匹敵し、さらにSmart Connector経由で接続・装着をするSmart Keyboardも登場した。さらに、それと同時にリリースされたiOS 9では2画面分割をするSplit Viewやフローティングウィンドウを追加するSlide Overも追加され、12.9インチの大画面を活かし切れるようになった一方、これらの機能はほとんどが横向きでの使用を意図しており、iPadの画面を縦で分割するとどのウィンドウも縦長となってしまい決して使いやすいものではなかった。キーボードについてももちろん横利用を想定しており、フルサイズのハードウェアキーボードがiPadと一体化された。

2018年に登場したiPad Pro (A12X)では、Apple PencilがiPadの音量ボタン側側面に配置された。これにより、Apple Pencilの充電の煩わしさが無くなった一方で、縦向きで持った際には右手にApple Pencilが当たってしまい扱いにくさが生まれた。これは、横向きでの利用が一般的になったことで横置きの時により使い勝手が上がるような方向へアップデートできたということだろう。
iPadOSへの分離
以前から、縦向きの利用はiPhoneの延長線上にある影響であるとしてきたが、WWDC19ではOSがiOSから独立してiPadOS 13として登場した。これにより、縦向きで利用することが前提のiOSと歩調を合わせる必要がなくなったことで、よりiPadにフォーカスした、もっと言えば横向き利用にフォーカスした機能追加をしていけるようになった。
その第一弾となるiPadOS 13では、横置き時にホーム画面の左側にあったTodayビューのウィジェットをホーム画面1ページ目に固定できるようになり、複数の情報を簡単に確認できるようになった。さらに、前述したSlide OverとSplit Viewについても、同一アプリで2ウィンドウ以上置けるようになり、Split ViewではApp ExposeとしてSplit Viewに配置されているアプリをAppスイッチャーの要領で使い分けられるようになるなど、より横向きでPCライクに利用できるようになった点は大きいだろう。

さらに、iPadOS 13.4からはマウスとトラックパッドによるカーソル操作とキーボードのライブ変換をサポートした。iPad Pro (A12Z)と同時に登場したiPad用Magic Keyboardに合わせたアップデートで、横向き固定でMacと遜色ないハードウェア的な操作感を実現する大きな一歩だっただろう。

Mチップの革命
iPhoneから独立し独自にPCを目指していったiPadは、2021年ついにMチップに辿り着いた。iPad ProとiPad AirにMチップ搭載を進めていく中で、iPadOS 16では待望のStage Managerが登場し、1画面最大4アプリをウィンドウとして自由に重ねたりして配置することができるようになった。さらに、外部ディスプレイでも同様のマルチウィンドウ配置ができるようになったことで、Mチップのパワーを発揮する環境となった。

さらにコロナ禍におけるビデオ会議需要の高まりを受けて、2022年に登場したiPad (A14)を皮切りに、Mチップ搭載モデルもiPad Pro (M4)とiPad Air (M2)とフロントカメラの位置が短辺から長辺に移動し、横向きで利用した際に中央に来るような位置関係となった。Magic Keyboardもファンクションキー付きの新モデルが登場し、ハードウェア的には完全に横向きに舵を切った形だ。

そして、先日のWWDC25で発表されたiPadOS 26では、新しいマルチタスキングとしてウィンドウを8つ以上重ねる表示に対応し、さらに画面の淵を越えた位置まで仮想的に配置できるようになった上、画面上部に赤・黄・緑の3点とメニューバーが追加されたことでMacらしい使い方にかなり近づいた印象だ。

これらの機能はもちろん縦向きでも利用できるが、WWDCの本編中での映像がほとんど横向きであったことを考えると、ソフトウェア的にも横向きに舵を取ったと言えるだろう。
総括
当初はiPhoneの遺伝子を受けて縦向きを中心としてたが、映像コンテンツ消費に加えPCライクな使われ方をするようになったことで、年を追うごとに横向きを中心とした設計へ変わっていったと言えるだろう。特にMチップの搭載を皮切りとしてマルチウィンドウなどPCライクな使われ方を想定とした横向き向け機能を多く追加し、今では縦向き利用がサブ的な立ち位置に変わっている印象だ。いつか、筐体のAppleロゴも横向きになる日は来るのだろうか。
COMMENTS
コメント
0件